森喜朗・公益財団法⼈東京オリンピック・パラリンピック競技⼤会組織委員会会⻑の発⾔に関する緊急声明(更新版)

森喜朗・公益財団法⼈東京オリンピック・パラリンピック競技⼤会組織委員会会⻑の発⾔に関する緊急声明

2021年2月24日更新
日本スポーツとジェンダー学会理事会

 2021 年 2 月 3 日に開かれた公益財団法人日本オリンピック委員会の臨時評議員会におい て、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、東京 2020 組織委員会)会長を務める森喜朗氏が「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」 「(女性は)競争意識が強い」といった趣旨の発言をし、さらに「女性の理事を増やしていく場合は、発言時間をある程度、規制をしないとなかなか終わらないので困る」という意 見を否定することもなく紹介したことが報道されています(読売、朝日、日本経済、毎日 各紙、NHK、2021 年 2 月 3~4 日)。

 この発言について森氏は、2 月 4 日午後に開かれた記者会見において「オリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切な表現であった」と認め、発言について謝罪、撤回しました。

 日本スポーツとジェンダー学会では、創立から 20 年の間、こうしたスポーツ界における 性差別的な認識と組織のあり方を批判的に検証し、改革に必要な情報の提供を行ってきま した。しかし、森氏の発言と発言時にその場に居合わせたスポーツ関係者の反応は、性にもとづく差別が日本の体育・スポーツ界をリードすべき立場にある組織に蔓延していることの現れであると判断されてもやむを得ないものでした。

 日本スポーツとジェンダー学会理事会は、森氏のこの発言が客観的な証拠に基づかず、 女性の特性を恣意的に作り上げ貶めるものであること、また、スポーツ界のみならず、日 本社会全体の女性進出が非常に遅延しているという問題の重大さを認識しておらず、女性の社会進出を否定するものであると受け止めました。

 森氏は東京 2020 の組織委員会会長という立場であるだけでなく、現公益財団法人日本スポーツ協会最高顧問、元首相でもあり、日本のスポーツ界、ひいては日本社会全体に長期 に渡り、大きな影響力を持つ立場にあります。

 オリンピック・パラリンピックは、巨額の税金が投入される公共性の高いスポーツイベントです。その組織委員長として、日本スポーツ協会の最高顧問として、単に、「発言について謝罪、撤回」をすることで許されるものではないと考えています。森氏の発言撤回に あたっては、組織委員会が組織として、このような性差別的認識や男女不平等を具体的にどのように改善しようとしているのか、その明確な方針と具体策の提示、その実行状況を 社会に伝えることが不可欠です。
 なお、国内では、2017 年 4 月にスポーツ庁、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)、 公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会 (JPSA)、日本パラリンピック委員会(JPC)、公益財団法人日本体育協会(JSPO)が女性 スポーツに関する国際的な提言である「ブライトン・プラス・ヘルシンキ 2014 宣言」に合 同署名しています。したがって、これら国内の主たるスポーツ関係組織全体が明確な方針 と具体策をもってスポーツ界全体のジェンダー平等に取り組んでいることを示す必要があります。そのことによって、この度の森氏の発言が国内のスポーツ界全体の傾向ではない ことを示し、社会の変化に影響を与えるためのスポーツの価値が示されるに違いありません。
 日本のスポーツ界が真にこの問題と向き合い、より良い方向に向かうために、何をする のかが、スポーツに関わる組織のリーダーに求められているのです。

 参考までに、森氏の発言が東京 2020 に関わる以下の理念や方針、条項のいずれにも反するものであることを示しておきます。(本件に関連する部分のみ抜粋)。

①オリンピック憲章
「オリンピズムの根本原則 6」
 このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。
「IOCの使命と役割 8」
 男女平等の原則を実践するため、あらゆるレベルと組織において、スポーツにおける女性の地位向上を促進し支援する。

②オリンピック・アジェンダ2020 20+20提言
「提言11 男女平等を推進する」

1.IOCは国際競技連盟と協力し、オリンピック競技大会への女性の参加率50%を実現し、オリンピック競技大会への参加機会を拡大することにより、スポーツへの女性の参加と関与を奨励する。
2.IOCは男女混合の団体種目の採用を奨励する。
「提言38 狙いを絞った候補者探しを実行する」
IOC委員の就任について、従来の申し込みによる方法から、狙いを絞った候補者探しのプロセスに移行する。
2.一連の基準を満たした候補者のプロフィールは指名委員会を通じ、IOC理事会に提出され承認を受ける。とりわけ以下の基準を満たすべきである。
・男女のバランス

③国際オリンピック委員会(IOC)ジェンダー平等再検討プロジェクト(2018年)“IOCジェンダー平等報告書”
「13 大会組織委員会」
・オリンピック憲章を尊重し、オリンピック・ブランドを保護するための公約の一環として、大会組織委員会は大会のあらゆる面で女性と男性の公正で平等な表象を提供する。
「ジェンダー平等達成に向けた6つの要因」
3.排除のない組織文化を維持(場合によっては導入)する
※なお、この報告書はタイトルが示すように全体にわたってオリンピック・ムーブメントにおけるジェンダー平等の現状について分析、考察している。

④国連 持続可能な開発目標(SDGs)
「5 ジェンダー平等を実現しよう」
5.1 あらゆる場所におけるすべての女性及び女児に対するあらゆる形態の差別を撤廃する。
5.5 政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する。

⑤スポーツ庁(2019)「スポーツ団体ガバナンスコード(中央団体向け)」
原則2 適切な組織運営を確保するための役員等の体制を整備すべきである」
(1) 組織の役員及び評議員の構成等における多様性の確保を図ること
① 外部理事の目標割合(25%以上)及び女性理事の目標割合(40%以上)を設定するとともに,その達成に向けた具体的な方策を講じること

⑥第5次男女共同参画基本計画(令和2年12月25日閣議決定)
「第7分野「生涯を通じた健康支援」」

<施策の基本的方向と具体的な取組>
3 スポーツ分野における男女共同参画の推進
(2)具体的な取組
② 令和元年6月にスポーツ庁が決定した「スポーツ団体ガバナンスコード」で設定された女性理事の目標割合(40%)達成に向けて、各中央競技団体における目標設定及び具体的方策の実施を促し、女性理事のいない各中央競技団体をなくすための支援を行う。【文部科学省】

⑦東京都人権施策推進指針(2015年8月)
「Ⅱ 基本理念と施策展開の考え方 1 人権施策の基本理念」
1.人間としての存在や尊厳が尊重され、思いやりに満ちた東京
2.あらゆる差別を許さないという人権意識が広く社会に浸透した東京
3.多様性を尊重し、そこから生じる様々な違いに寛容な東京

⑧国際女性スポーツワーキンググループ(IWG)ブライトン・プラス・ヘルシンキ2014宣言
* 2017年4月、スポーツ庁、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会(JPSA)・日本パラリンピック委員会(JPC)、公益財団法人日本体育協会が合同署名。
<10の原理・原則>
(1)社会・スポーツにおける公平と平等
(2)施設・設備の配慮
(3)学校体育・青少年スポーツにおける平等
(4)スポーツへの参加促進
(5)ハイパフォーマンススポーツへの参加
(6)スポーツにおけるリーダーシップの発揮
(7)スポーツ指導者等に対する教育・啓発
(8)調査研究及び情報提供における平等
(9)資源(人的・物的)配分における配慮
(10)国内・国際活動における連携・協力

https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop11/list/1387282.htm

以上