新しい世紀を迎え、男女が性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現が、緊要の課題となっています。1999年に公布・施行された男女共同参画社会基本法には、男女が性別による差別的取り扱いを受けないことを旨とする男女の人権の尊重、社会における制度・慣行についての配慮等、5項目にわたる基本理念が掲げられています。 一方、2000年には、現代社会におけるスポーツの重要性に鑑み、わが国で初めてのスポーツ振興基本計画が策定されました。そこでは、成人の週1回以上のスポーツ実施率を50%に高めること、10年間で全国の市町村に総合型地域スポーツクラブをひとつ以上育成すること、オリンピックでのメダル獲得率を倍増すること、生涯スポーツおよび競技スポーツと学校体育・スポーツの連携を推進させる方策など、具体的な目標が掲げられています。このように、現在ではスポーツの振興が、個人や社会の健康・教育・福祉・経済を考える上で、必要不可欠な政策課題とされているにもかかわらず、スポーツ界には性による差別が強く残り、とりわけ、女性にとって不平等・不公平が多く見られます。

社会変革を推進するには、変革を促進するための条約や法令、理論構築、草の根運動の三つが必要といわれています。一つ目の条約・法令に関しては、国内では先に述べた男女共同参画社会基本法、国際的には女性差別撤廃条約、北京行動綱領、さらには世界女性スポーツ会議における成果文書であるブライトン宣言やウィンドホーク行動要請等が採択され、効力を発揮しつつあります。また、2006年には、第4回世界女性スポーツ会議が熊本で開催されることが内定しています。

しかし、スポーツにおける男女平等・公平を推進する運動、それを牽引する理論構築はまだ不十分な現状にあります。わが国におけるスポーツのジェンダー研究を概観すると、体力や競技記録を性別に分析したカテゴリー的研究、メディア、コーチ・管理職、競技種目や参加に関する配分的研究が多くを占めています。スポーツのジェンダー・ポリティクスを解明するには、ジェンダーの支配構造を支え、ジェンダーの再生産装置として機能してきたスポーツの役割を明らかにする関係論的研究が必要不可欠です。これらの研究はまだ緒についたばかりであり、思想(哲学)、歴史学、社会学、文学、労働・経済、教育、芸術、メディア論等の他領域、或いは諸外国に比較すると大きな遅れをとっています。さらに、最近のジェンダー研究は、セックスとジェンダーとセクシュアリティの不連続性、性の多様性、ジェンダーの主体性、ジェンダーの南北問題等、新たな展開をみせています。これらの知見を踏まえ、スポーツとジェンダー或いはセクシュアリティに関する研究を加速するには、この領域に関心を持つ人たちが一堂に会し論議・研究を深めることが急務です。

そこで、私たちは、「スポーツにおける男女平等・公平の達成」「ジェンダー・フリーなスポーツ文化の構築」を目標に、「日本スポーツとジェンダー研究会」を設立します。主な活動内容は、研究会の開催、機関誌の発刊、HP公開で、3年後には学術組織となることを目指します。研究者、教育関係者、行政担当者、スポーツ指導者、競技者、スポーツ愛好家やスポーツを専攻する学生たち等、多くの人々が「日本スポーツとジェンダー研究会」の趣旨に賛同され、参加・協力していただけるようお願い致します。

2002年4月

「日本スポーツとジェンダー研究会」
設立準備委員会代表 飯田貴子