Ultimate Fighting Championship初の女性ファイター達が提起する問題

 北米での総合格闘技(Mix Martial Arts)の人気は1990年代から格闘技ファンの間に徐々に高まり、2000年代を通して一般の人々にも広く知られるようになりました。総合格闘技のライバル団体を次々と買収し世界最大の団体となったUltimate Fighting Championship (UFC)は、現在総合格闘技のトップ選手の7割を抱え、マーケットをほぼ独占状態にあります。2011年4月には、オンタリオ州(カナダ)で初めてのUFCがトロント市で開かれ、入場者数55,724人、チケットの売り上げ1200万ドルと、集客数売上高ともにUFCの過去最高を記録しました。

この空前の総合格闘技ブームの中、2013年2月23日、カリフォルニア州アナハイムで開かれたUFCで、初の女子選手によるチャンピオンシップとして、二人の女子選手が歴史的なデビューを飾りました。女子バンタム級チャンピオンとして初めてタイトル防衛に挑んだのは、北京五輪においてアメリカ人女性として柔道で初めてのメダリストとなったロンダ・ラウジー(Ronda Rousey)。対する挑戦者のリズ・カムーシェ(Liz Carmouche)は沖縄育ちの元アメリカ海兵隊員で、UFCで同性愛者であることを公表した初のそして唯一の選手です。UFC社長のデイナ・ホワイト(Dana White)は、過去にUFCに女子選手が参加することはあり得ないと発言していましたが、ロンダの登場によりその考えを改めたといわれています。女子初のUFCの試合であったことに加えて、タイトルマッチであったこと、メインプログラムという位置付けでその日の男子のメインカードであったライトヘビー級の試合の直後に組まれたこと、さらに二人のプロフィールのユニークさも手伝って、北米では大きな注目を集めました(CNNとCBCの記事参照)。

スポーツとジェンダー、セクシュアリティという視点から見ると、今回の試合は今年7月の本学会大会でも取り上げられるスポーツとジェンダー、暴力、そしてエンパワーメントの問題、さらに女性や同性愛者などのスポーツにおけるマイノリティの、市場への取り込みなど、多岐に及ぶ問題を提起していると言えるでしょう。スポーツを通じて再/生産されるマスキュリニティの最も有害な一面として捉えられてきた他者を傷つける(ことができる)能力、そして自身の痛みや怪我を無視あるいは過小評価するタフさ。これらの能力を身につけることは総合格闘技のみならず、全ての格闘技そして多くのスポーツで成功するのに重要な条件と言えます。その一方で総合格闘技という西洋的マスキュリニティの頂点を競うようなスポーツにおいて、特に長く女性を排除してきたUFCにおいてメインカードとして女子の試合が行われたこと、さらに同性愛者を公表している選手が虹色のマウスピースをつけて、若い男性がファンベースの大半をしめるUFCの大舞台に上がったこと(Outsportsの記事参照)等々、ポジティブに捉えられうる側面も持っているとも言えます。スポーツと暴力、ジェンダーとセクシュアリティ、さらにメディアと金が複雑に絡みあった今回のイベントは、日本にも馴染みの深い総合格闘技の世界を通じてスポーツとジェンダー、エンパワーメント、そして身体という多重で多様に絡み合った問題を非常に興味深い形で提起してくれていると言えるでしょう。

カナダでのニュース(CBC)

http://www.cbc.ca/sports/mma/story/2013/02/24/sp-ufc-157-ronda-rousey-liz-carmouche-130223.html

アメリカでのニュース(CNN)

http://www.cnn.com/2013/02/24/us/ufc-women-fight

Outsports.com

http://www.outsports.com/2013/2/24/4054364/openly-lesbian-liz-carmouche-loses-ufcs-first-female-fight-gains-new