国際交流委員会より、国際会議参加報告をいたします。委員自身の参加報告をいたしますこと、大変恐縮ではございますが、どうかご容赦ください。みなさまのご報告を引き続きお待ちいたしております。

Surfing Social Hui (Surfing Social Conference)参加報告
水野英莉(流通科学大学)

日程:2016年2月6日~22日
場所:ニュージーラン;オークランド、ラグラン、ハミルトン
学会テーマ:サーフィンと社会・文化―サーフィン・アイデンティティと空間への挑戦
開催:ワイカト大学

<きっかけ>
少し前のことになるが、2016年にニュージーランドで開催されたサーフィン学会に参加したことについて報告したい。研究の大きなターニングポイントになったと思うので、海外での研究発表の意義などについても触れながら振り返ることにする。

この学会開催についてのニュースを教えてくれたのは、記憶違いでなければ、会員の井谷聡子さんだったと思うのだが、Facebookを通じて、関心があるのではと情報を教えていただいた。サーフィンをメインに扱う学会には参加したことがなかったので、急いで準備をし、無事エントリーできた。

<フラットな学会>
主催は、ワイカト大に所属していたリサハンター先生を中心に運営され、ニュージーランドやオーストラリアのサーフィン研究者が一堂に集まっていた。他にも、活動家、プロ選手やメディア関係者など、サーフィンに関心を持つ多様な人々の参加があった。

プログラムは、基調講演などは一切なく、セッションが区切られているだけで、すべての報告者が、同じ部屋で、同じ持ち時間で報告をした。今思うと、これはリサのこだわりで、誰もが平等に同じ立場で議論する空間が作りだされていたのではないかと思う。

会場は、世界でも有名なラグランというサーフポイントを眺めることのできる、板張りの部屋だった。みな靴を脱ぎ、文字通り同じ目線になるしかけであった。参加者は短パンにTシャツやアロハシャツなど、そのままサーフィンにいくようなカジュアルな装いだった。机はなく、椅子が並べられたレイアウトだった。特に座長などもおらず、報告担当者は、そのまま前に出ていって話し始めるのである。

会場は、大学ではなく、ソルスケープ(Solscape)(http://www.solscape.co.nz/)というエコフレンドリーな宿泊施設だった。いわゆるホテルのような立派な建物はなく、木造のコテージや、廃電車を再利用した小屋、二段ベッドのドミトリー、テントサイトなどのなかから選ぶのである。徹底して環境に配慮した施設になっており、水も電気も節約することが求められた。屋根はあれども、常にテント生活をしているようであった。食事は、自前の畑でとれた野菜が中心のベジタリアンメニューで、有機の食材が中心だった。

<セッションやイベントについて>
セッションは全部で8つあり、1つのセッションにはだいたい4題あった。全体としてサーフィンを社会や文化の側面から、批判的に分析するものであった。ジェンダーやセクシュアリティ、フェミニズム、ポストコロニアリズム、グローバリズム、オリンピズム、ツーリズム、アイデンティティ・ポリティクス、人種理論、環境問題など、批判的理論を用いた分析がほとんどであった。当時あまりサーフィン研究の最先端を追えていなかったので、大変に刺激を受けた。これ以降は研究の先端をチェックしていくのも、非常に容易になった。著名な研究であっても、顔が見える相手の話はわかりやすい。やはり、直に会って話を聞くことができるというのは、重要なことなのだろう。

参加者は、ほとんどが白人で、わずかにマイノリティが混じる程度だった。男女比は比較的均等だった。アジア系は私一人で、英語を母語としない人はきわめて少なかった。海外で研究報告や英語での報告の経験は少しあったが、誰一人として知り合いはいなかったので、とても心細かったが、リサをはじめとする主催グループの女性たちが、非常に親切で、食事に行くときも、海に行くときも、必ず私に声をかけてくれ、以後ずっと行動を共にさせてくれた。

最終日には映画『Out in the line-up: Uncovering the Taboo of Homosexuality in Surfing 』の上映があった。この映画は2014年に公開されたオーストラリア映画で、OUTというのはセクシュアリティのカミングアウトを意味している。プロ選手として現役で活動する時には同性愛をカミングアウトできなかった元プロサーファー、現役時代からカミングアウトして活動したサーファーなどが、それぞれのストーリーを語り、同性愛をカミングアウトすることの困難を語っていた。トーマス・キャステツ自身も上映会に参加し、映画の紹介を行った。

この時になって私は初めて、サーフィンの世界の異性愛中心主義に意識を向けていなかったことに気づいた。ジェンダー視点を持ってはいたが、セクシュアリティに関しても差別や抑圧があることを、ほとんど考えていなかったのである。作成者のトーマス・キャステツが開設した「GaySurfer.net」というウェブサイトも教わり、世界中のゲイサーファーたちが安心してつながれる数少ない場所の存在を知ることができた。

<本の出版>
大会期間中、プログラムの合間の時間帯を使い、リサはここでの報告を書籍として出版したい人たちを会場に集めた。こうした機会をまさに求めていたので、自信はなかったが、とりあえず参加してみた。セックス、ジェンダー、セクシュアリティとサーフィンに関心を持つ人たちが、各自のテーマで論文を書く論集出版の計画だった。相互にピアレビューを何度か入れ、修正をしつつ1冊の書籍にまとめていく。リサがRoutledge社とのやり取りし、計画は実現することになった。

原稿は、レビューアーに送る前に英語校正の会社に出しておいたが、学術的な専門用語やサーフィンに関する専門用語、微妙なニュアンスなど、すべてカバーしてもらうのは難しい。編者になったリサは、私の原稿を非常に丁寧に、注意深く、そして辛抱強くチェックし、修正してくれた。たくさん面倒をかけて申し訳ないと謝る私に、外国語で論文を読んで書くことの大変さに共感を寄せ、謝る必要はない、日本の研究がぜひとも必要なのだと何度も言い聞かせてくれた。こうした多大なサポートをいただきながら、原稿は完成していった。この論文は、Routledgeから出版された『Surfing, sex, genders and sexualities』に収録されている。

この論文は英語で書いたおかげで、多くの人の目に留まることになった。日本でサーフィン研究をしている数少ない研究仲間ともつながり、その後の共同研究につながっていった。英語で書くことの大切さと、影響力の違いを実感した。

<ふりかえって>
この学会への参加経験は、自分にとって、研究、そしてサーフィンを続け、バージョンアップしていくモチベーションを大いに高めてくれるきっかけとなった。ジェンダーセンシティブな意識持ち、サーフィンを通じたフェミニズムを、アカデミズムの主張にとどまらず実践する誠実で力強い女性研究者たちとの出会いに刺激を受けた。

全体として、あらゆるマイノリティへの配慮に満ちていたと思う。ベジタリアン、エコロジスト、ジェンダーやセクシュリティのマイノリティ、エスニック・マイノリティ、非英語話者に対して、敬意が払われ、配慮がなされていていた。全員が裸足で報告するという型破りなこの学会は、あらゆる人が地位や立場を靴と一緒に脱ぎ去って、対等な場所に立つという、今までにない経験をさせてもらった。

サーフィンを愛する研究者たちがつくりだす、フラットな関係性、刺激に満ちた議論、平和で優しい陽気な時間は、大変新鮮だった。特に5名の女性研究者たちの示してくれたあたたかい友情には、どれだけ感謝してもしきれない。そこに滞在した4日間、一人も日本の人を見ることなく、日本語を話すこともなく過ごした。英語でのコミュニケーションは楽ではない時もあったが、毎日が必死で、そして充実していた。たくさんのアルコール、たくさんの波、貴重な経験をシェアした滞在だった。

 

本報告のPDF版は以下のリンクからご覧いただけます。
Surfing Social Hui(Surfing Social Conference)参加報告