熊安貴美江(大阪女子大学)・飯田貴子(帝塚山学院大学)・井谷惠子(京都教育大学)・太田あや子(武蔵丘短期大学)・高峰修(中京大学体育研究所)・吉川康夫(帝塚山学院大学)
スポーツにおけるセクシュアル・ハラスメント研究の現状・視点・課題








 近年日本では、スポーツにおけるセクシュアル・ハラスメントの事件が報じられているにもかかわらず、このテーマでの研究事例は日本においてほとんど見当たらない。一方海外では1980年代半ば以降、着実にスポーツにおけるセクシュアル・ハラスメント研究が蓄積されてきた。本稿は、主に1990年代以降の文献をレビューしながら、今後のスポーツにおけるセクシュアル・ハラスメント研究の視点と課題を提示する。
 これまでのところ、調査研究は主に男性と女性、あるいはコーチと選手や学生といった関係に注目しておこなわれてきた。スポーツにおけるセクシュアル・ハラスメントの経験や認識が調べられ、リスク要因やセクシュアル・ハラスメントの影響についても、わずかだが有用な質的研究がおこなわれている。また、セクシュアル・ハラスメントを防止するための対策づくりへの取り組みもみられる。しかしながら、研究調査すべき側面はまだ多く残されている。
 日本においてセクシュアル・ハラスメント問題を可視化するためには、先行研究が示唆するように、ジェンダー視点での研究が不可欠である。男女間のハラスメントだけでなく、同一ジェンダーカテゴリー内に存在するセクシュアル・ハラスメントを読み解くことで、スポーツにおけるジェンダーの権力作用がより明らかにされるだろう。
 この問題の重要性を示すための研究課題として、まずは暴力やabuseが頻発しているスポーツ現場でのセクシュアル・ハラスメントの実態を明らかにし、認識調査をおこなうことが求められる。
日本特有のセクシュアル・ハラスメントの文脈を理論化することも必要であり、それに基づいた防止対策や被害者の救済システム、コーチや競技者に対する教育プログラムの開発も、急務の課題といえよう。
また、研究における研究者と調査対象者、そしてスポーツ組織との間の権力関係の調整も重要な課題としてあげられる。それをクリアするためにも、情報やアイデアをよりよく共有するためにも、カウンセラーや教師などのサポートグループとの連携が求められる。


キーワード:スポーツ、セクシュアル・ハラスメント、研究視点、研究課題


スポーツとジェンダー研究, VOL.3: 26-41, 2005.