飯田貴子
(帝塚山学院大学人間文化学部)
オーディエンスの多声性とジェンダー対抗的自己形成
−女性競技者の新聞報道分析−









 本研究は,アトランタ五輪3位,世界柔道優勝,シドニー五輪2位の女子柔道楢崎教子選手に関する新聞報道を,ジェンダー,年齢,社会的属性などが異なるオーディエンスが,どのように読み解いているかを面接調査を通して検討したものである.テクスト解釈の分析には,ジェンダーの視座から支配的立場,折衝的立場,対抗的立場の3つに分けた.
 1)オーディエンスの解釈には,自身の「生きられた経験」に照らし読み解くという多様性が観察された.
 2)多くのオーディエンスは折衝的読みを通して,テクストにコード化された家父長制言説,女性スポーツ亜流言説,異性愛言説,新性別役割分担言説を支配的に受容し,再生産していた.
 3)女性初といわれた労働環境での仕事をしてきた経験やジェンダー理論を深く学ぶことが対抗的読みに有効であると示唆された.
 4)面接調査中,テクスト解釈を進めるにつれて対抗的読みをするオーディエンスが増加していった.このことは,一連の記事を深く読むという行為や他者との対話がメディア・リテラシーを生み出し,ジェンダー対抗的自己形成に繋がったと推察される.

キーワード:オーディエンス,多声性,ジェンダー,新聞報道,脱コード


スポーツとジェンダー研究, VOL.3: 4-17, 2005.