オリンピック大会への女性の参加をめぐるIOC内部の議論とIAAFの擁護に関する研究:
1930年第9回オリンピック会議議事録とJ.S.Edströmの書簡の検討

來田享子(愛知学泉大学)

要約

 1928年から1932年にかけて、IOCでは理事会、総会、オリンピック会議などにおいて、オリンピック大会への女性の参加問題が頻繁に議論された.これらの会議のうち、1930年第9回オリンピック会議の決議あるいは審議内容について、いくつかの先行研究は異なる解釈を行っている.本研究の目的は、第9回オリンピック会議における女性の参加問題に対するIOC内部の議論、および同時期のIAAFによる女性の参加に対する擁護を検討することを目的としている。主な史料として、同会議の議事録と当時のIAAF会長エドストロームの書簡を用いる.
 検討の結果を以下に要約する.
1) 第9回オリンピック会議における女性の参加を制限する意見は、バイエ・ラトゥールの主導によるIOC理事会によるものであった.一方、第9回オリンピック会議に参加したその他の関係者、NOC代表者やIF代表者は、より肯定的な判断を行っていた.
2) 第10回ロサンゼルス大会の女性の種目を決定する際に、エドストロームはIAAF会長として、女性の陸上競技を積極的に擁護する意思を表明した.
3) IOCにおける度重なる審議とIAAFの意思表明につれ、IOC内部の批判的見解は次第に減少していった.
4) エドストロームによる文書の解釈から、女性の参加を擁護する見解の論拠はIF相互の拮抗の影響下で形成されたことが示唆された.

キーワード:女性スポーツ、オリンピック大会、IOC、IAAF、ジェンダー


スポーツとジェンダー研究,1:39-53,2003.