報告者:日本スポーツとジェンダー研究会 佐野信子(弘前大学)
2003年3月15日(土)午後2時から大手前栄養学院において、「学校体育とジェンダー」第1回研究交流会(日本スポーツとジェンダー研究会<JSSGS>主催)が開催されました。JSSGSは「スポーツにおける男女平等・公正の達成」「ジェンダー・フリーなスポーツ文化の構築」を目標に掲げて2002年に設立されたまだ新しい団体ですが、設立当初から検討すべき課題の一つとして学校体育にみられるジェンダー・バイアスを取り上げてきました。
今回は、JSSGSの松田恵示さん(岡山大学)の司会のもと、森陽子さん(高槻ジェンダー研究ネットワーク)とJSSGSの井谷惠子さん(京都教育大学)に話題提供をお願いし、学校体育におけるジェンダー問題について理解の深まりを目指しました。教諭、研究者、大学院生など約40名が参加され、それぞれの立場からこの問題に対して率直な意見を寄せられました。演者お二人の講演内容を紙幅の許す範囲でご紹介します。
まず、森さんが「教科書をジェンダー視点から分析する」というテーマでお話しくださいました。新学習指導要領完全実施にあわせ、2002年度から大阪府高槻市の中学校で使用されることとなった教科書は、全体としてみればジェンダー・フリーに向かっていると捉えられるものの、編集者の大方は男性で占められていること、教科によりジェンダーの視点の導入程度に濃淡が認められることなどを問題として指摘されました。保健体育の教科書(学習研究社「中学保健体育」)については、セクシュアリティの多様性についての記述が無いなどといった課題は残されているが、男女が一緒に手をつないで体ほぐしの運動をしている写真や、外見からは性別を感じさせない生徒達がスポーツを楽しんでいる写真が掲載されていることを評価されました。
井谷さんのテーマは、「保健体育教員の採用における男女差別をどう考えるか?」です。H県教育委員会に情報開示を請求して入手されたデータによれば、平成14年度の高等学校保健体育科教員採用試験の競争倍率は、男性が22.7倍(受験者数227名、合格者数10名)であるのに対し、女性は86倍(同86名、同1名)と男女で極めて不均衡なものとなっています。また、中学校教員については男性の8.9倍(同89名、同10名)に対し、女性は26倍(同104名、同4名)と、受験者数は女性の方が多いにもかかわらず採用者数は女性の方が少ないという実態です(なお、同様に女性の受験者数の方が多い国語や音楽などの他教科では採用者数も女性が多くなっています)。同県の男女共同参画社会づくり条例の申出制度を利用して、保健体育科教員採用にあたっての男女差別改善を求めるアクションを起こされた経緯について話される中で、このような実態を生じさせる背景―例えば、体育は今だに力でもって子供達をより強くたくましくするための指導をする教科であるという根強い捉えられ方―についてもふれられました。
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学校の中で(保健)体育は他教科に比べて身体の存在が前面に出やすい教科です。さらに、中心教材となっている(近代)スポーツはジェンダー・バイアスを内包しています。そのためか、体育はジェンダーの問題になかなか気付きにくく、同時に、ジェンダー・フリーへの道程も険しいものと思われます。しかしながら、体育は丸ごとの身体を扱う教科だけに、そこでジェンダー・フリーが達成できれば、他教科及び学校全体への波及効果は計り知れないものがあると私は考えています。
(この報告文は「学校をジェンダーフリーに・全国ネット」ニュースレターにも掲載されています。)